認知症の割合は80〜84歳では24.4%、85歳以上では55%以上※と言われ、高齢者においてはありふれた疾患となっています。認知症のある方が入院すると、環境の変化から混乱してしまうことがあります。この時のケアが不適切であると不安や混乱がより大きくなり、入院生活や治療に支障をきたして患者さんのQOLは大きく低下してしまいます。
長年、高齢者医療と福祉に取り組んできた当院は、認知症においても適切なケアを当たり前に行い、認知症のある方でも安心して入院生活が送れるよう取り組んでいます。
認知症は認知機能の障害により、認知症のない人と比べると世界の見え方が次第に大きく異なっていく病態です。こうした特性を持つ認知症のケアにおいて最も大切なのは、一人の人として尊重し、その人の見ている世界を理解しようと努力する姿勢です。この姿勢は、認知症ケアに限らずすべてのケアに共通するものでしょう。
一人ひとりが認知症の正しい知識を持ち、適切なケアを行えるよう、当院では認知症ケアサポートのための委員会を設置。認知症のある患者さんと、患者さんに関わるスタッフへのサポートや助言、院内の認知症に対する教育を行っています。
また、認知症世界の歩き方研修やユマニチュードのような認知症ケアの技術を身につける研修を定期的に行っています。
※出典:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮利治教授)
※ユマニチュード®:認知症や高齢者へのケア技法であり、「人間らしさを取り戻す」という意味の造語(フランス語)。ユマニチュードの基本は、「見る」「話す」「触れる」「 立つ」。これら4つの柱に沿って、相手が「大切に思われている」と感じられるよう心がけてケアを行う。介護する側とされる側が共に人間らしく寄り添うことを目指している
リハビリテーションを行うフロアでは、個別ケアや集団でのリハビリテーションを実施。複数のスタッフが見守りを行っており、認知症の方に限らず参加できる
レクリエーションの様子。魚釣りゲームでは、釣れると歓声が上がることも
土曜午後に取り組んでいる共同作品の制作。補助をするスタッフが自然とユマニチュードを取り入れたケアを行っている様子が伺えた。作品は、徳島県作業療法士会主催「作業療法作品展」に毎年出品。展示会場は患者さんやご家族が観覧し交流する場になるという
OT(作業療法士)カフェでは、コーヒーやおやつをカフェスタイルでスタッフが提供。病室から出る、人と交流する、楽しみを持つことを目的に定期開催している
フロアの一角に設けられた脳トレグッズのコーナー(一部)
患者さんに人気があるというドールセラピー。世話をしたり、話しかけたり、抱っこしたりすることで、認知機能の向上や精神安定などが期待できる
患者さんの動線上に、転倒防止マット、離床センサー、複数の手すり、ポータブルトイレ等を設置した個室。高齢の認知症患者さんは日常の生活行為ができる一方で、転倒のリスクが高いケースもある。離床センサーが患者さんの動きを感知してスタッフが来室するまでの間に転倒などが起きにくいよう低床ベッドをはじめとした様々な工夫がこらされている
スタッフステーションでは、認知症ケアに関する情報を共有し、対策などについて多職種がそれぞれの専門的な知見により意見を交わす時間を設けている
看護部主催の認知症ケアに関する研修会。現場で認知症ケアにかかわっている看護師が講師を務め、ケーススタディなどを行った
※情報はいずれも取材時のものです(2025年1月)
当院の診療指針8「認知症ケアを当たり前に行う」についてご紹介しました。当院では、「病気」ではなく「人」を診ることを大切にし、8つの診療方針の徹底に努めています。詳しくは各診療指針の紹介ページをご覧ください。
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