複数の疾患に対して薬剤処方を重ねているうちに薬の種類が多くなり、副作用や飲み合わせの悪さにより患者さんの体に負担がかかっている状態を、多剤内服(ポリファーマシー)といいます。さまざまな研究で、6種類以上の内服は薬物相互作用の頻度が高くなることがわかっており、ポリファーマシーは有害事象の増加や服薬間違いなどにつながるため、見過ごすことはできません。
当院では「足し算の処方」から「引き算の処方」へと考え方をシフトし、6 種類以上の服薬を多剤内服として定め、積極的に服薬数を減らすよう取り組んでいます。
患者さんが入院するタイミングは、薬の「仕分け作業」の絶好のチャンス。入院中は薬剤の減量や中止による患者さんへの影響を常に観察でき、より安全に薬剤の調整が行えるためです。病棟薬剤師が服用中の薬やアレルギー歴、服薬状況などを確認し、医師をはじめとする他職種と相談しながら持参薬の中止や減量、代替薬の提案を行います。
ポリファーマシーが起こるのは、自分が処方した薬にしか責任を持たず、患者さんが服薬しているすべての薬に責任を持とうとしない医師の問題が大きいといえるでしょう。当院では、入院した患者さんの主治医が、飲んでいる薬のすべてに責任を持つことを当たり前のように行っています。
入院時チェックを経て医師に薬剤計画を提案している薬剤師。
入院時の持参薬チェック。薬剤をひとつずつ確認し、パソコンで「持参薬確認表」を作成する。
薬剤師は患者さんの症状を見ながら、減薬や他の薬への切り替えを提案する。
高齢者への処方頻度が高く、漫然とした投与に気を付けたい薬剤。
ロキソプロフェン(販売名:ロキソニン)は鎮痛解熱剤としてよく知られているが、胃を荒らしてしまう副作用がある。
胃の消化性潰瘍に使う薬であるファモチジンOD錠は副作用でせん妄を起こすことがある。上記、ロキソニンの副作用を抑えるためにファモチジンOD錠が処方され、その副作用によるせん妄を抑えるために…と処方が重なることを「処方カスケード」という。
神経の高ぶりを抑え、不眠にも使用される漢方薬「抑肝散」はカリウム値を下げる有害事象も。薬剤チェックで副作用の影響だと気づかなければ、検査結果を見て「グルコン酸K(カリウムを補給する薬)」を処方することに。
入院時のカンファレンス。患者さんに関わる病棟スタッフが集まって情報を共有する。
病棟薬剤師の数が多いことも同グループの特長のひとつ。患者さんと直接コミュニケーションを取りながら薬の効果を確認する。
当院の診療指針6「入院を機に必要な薬を見直します」についてご紹介しました。次回は、診療指針7「退院後もしっかり支えます」についてです。ぜひ、ご覧ください。
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「ポリファーマシーはなぜ起きる?薬の種類と量を適切にするために」
「約20年かけて積み上げたポリファーマシー対策の知見を日本の医療に生かしたい」