病気や老化、低栄養、長期間の絶食による廃用症候群などにより嚥下機能が低下すると、病気は治癒したとしても、食事ができず在宅復帰が困難になります。患者さんの在宅復帰を目指し、退院後のQOLも見据えて取り組んでいる当院としては、このような事態を何としても防がなければいけません。そのため、患者さんが入院するとすぐ言語聴覚士が嚥下機能を評価し、嚥下状態に適した食事提供とプログラムに沿った摂食・嚥下リハビリテーションを実施します。嚥下機能は身体機能とも深く関係しているため、口や喉のリハビリテーションを行う言語聴覚士だけでなく、理学療法士や作業療法士も加わり、多職種でリハビリテーションに取り組んでいきます。
嚥下機能が低下した患者さんも、口から食べられるように最大限工夫します。当院では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が提唱している「嚥下調整食分類」をベースに主食(ごはん)5 段階、副食(おかず)6 段階の嚥下調整食を組み合わせて、患者さんの摂食嚥下機能の回復状況に応じ、最適な食事を提供します。
すでに嚥下障害のある患者さんの場合、再び口から食べることができるようになるのは簡単ではありませんが、当院は多職種によるチーム医療を徹底し、口から食べられる可能性を最後まで考え、全力を尽くしていきます。
※「口から食べる」を最後まであきらめないための取り組みについて、以下、写真でご紹介します。
朝8時半。博愛記念病院の管理栄養士は朝食を出し終えた厨房を離れて徳島市中央卸市場へ。週4日の買い付けで、1週間の献立を賄う量の野菜や鮮魚を仕入れている
9時過ぎ、昼食の調理が始まると、調理師たちの忙しさはピークに達する。誰もが担当する調理作業に集中していて声をかけるのもはばかられるほどだ
この日のメインメニューは「牛肉のオイスター炒め」。担当調理師が大型の回転釜二機を駆使して調理する。担当調理師は、バンドで言えばボーカルみたいな役割で、周りのスタッフを牽引しながら調理を進めてゆく
11時。盛り付けを終えた食事を患者さん一人ひとりに合わせて配膳されていく
アレルギーや病気の状態、栄養状況、患者さんの好みなどの情報が集約されている名札を見ながら、患者さん一人ひとりに合った配膳を用意する
11時半。食事内容は、管理栄養士の提案を受けて医師が食事指示(オーダー)を出す。間違いがないように、管理栄養士と調理師は一皿一皿の内容をダブルチェック、トリプリチェックして確認したのち、配膳車を病棟に運ぶ
厨房に併設されている「特食厨房室」。同グループでは経管栄養剤はここで配合している。管理栄養士から伝えられたオーダーに基づき、患者さん一人ひとりに必要な栄養素や量の調整も、グループ直営の厨房だからこそできることのひとつだ
歯茎で噛みつぶせる柔らかさの咀嚼調整食「ソフト食」。ペースト食であっても、人参を飾り切りのように調理して見た目を整えている
患者さんの好みに合わせて、おにぎりも山型と俵型とで作り分ける
患者さんたちが食事をする間に、食の進み具合や食べ方、必要な栄養がしっかり摂れているかなどを確認する「ミールラウンド」が行われる
ミールラウンドでは、患者さんのその日の体調や食べ物の好き嫌いなども聞いていく
取材中にご馳走になった昼食の一部。365日3食異なるメニューには、全都道府県の郷土食や各国料理、行事食なども取り入れる。食事を入院中の楽しみに思ってくれる患者さんも少なくないという
NSTでの回診の様子。全体的な体調や食欲のほか、摂取カロリーの把握、今後の治療方針、血液検査の数値などを総合的に判断し栄養状態の改善を目指す
嚥下・咀嚼機能を評価するのはST。咀嚼と嚥下に使う筋肉にマッサージを施している様子
管理栄養士にとってナースステーションが前線基地だとすれば、厨房に隣接する事務所は作戦本部である。ここでもスタッフ同士のやり取りは途切れることはなく、患者さんの情報が絶えず厨房へと共有されている
当院の診療指針4「口から食べられる可能性を最後まで考える」についてご紹介しました。次回は、診療指針5「自分の意思でトイレに行き排泄することを目指します」についてです。ぜひ、ご覧ください。
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「『口から食べる』を最後まであきらめない。」