身体抑制は移動の自由、行動の自由を奪う行為であり、これらの自由の抑制は禁固刑という刑罰で用いられていることからもわかるように、人間にとって大きな苦痛です。身体抑制により自由に動けなくなった患者さんは、関節拘縮や褥瘡、筋力や心肺機能の低下といった身体的な悪影響だけでなく、精神にも極度のストレスを被ります。怒りや不安、スタッフへの不信感といった段階を経て、最終的にはすべてをあきらめ、生きる意欲を失ってしまいます。しかし、いまだに多くの病院では、点滴や栄養のチューブ、気管切開チューブなどを抜くと危険だからという理由で、平然と身体抑制が行われているのです。
認知症のある患者さんへの無意識の偏見や差別心もまた、身体抑制の安易な実施につながっています。認知症のある患者さんを「自分たちと同じ一人の人間」ではなく「自分たちとは違う認知症の患者」と捉えてしまうことで、自分の家族にはできないようなこともしてしまうのです。まずは、誰しもが持ち得る、この無意識の偏見や差別心を自覚しなければいけません。
当院は身体抑制ゼロの実現を目指し、「身体抑制を選択肢に入れず、最大限考えて工夫すること」を大切にします。そのための教育に努め、センサーなどのツールを潤沢に用意し、見守りやコール対応に必要なマンパワーも確保。身体抑制ゼロに向けた取り組みを強力にサポートしていきます。
博愛記念病院の講堂にて行われた身体抑制廃止委員会による研修会のようす
ベッドで四肢拘束を受けている金子さんに話しかける研修中のスタッフ
平成医療福祉グループでは、きわめて稀にしか行うことはない四肢拘束。手首を保護したうえでできるだけ肌にやさしく柔らかいディスポーザルタイプの抑制帯を採用しているが、身動きがとれないことには変わりない
点滴などチューブ類の抜去を防ぐ目的で使用される抑制ミトン。手首にあわせてベルトを引き先端をフラップに止めてホックで施錠する。ミトンを装着した手ではとても外すことはできない。
車椅子からのずり落ち防止と座位保持のために装着する安全ベルトに加え、手首の拘束を受けると自由に立ち上がれなくなる。転倒防止を目的とする身体抑制の方法だという
当院の診療指針2「身体抑制の廃止」についてご紹介しました。次回は、診療指針3「みんなにうれしい食事の提供」についてです。ぜひ、ご覧ください。
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